繰上げ返済は控除期間にやってはいけないのか?返済額軽減型・10年後の検証結果

不動産・実家賃貸

繰り上げ返済について語られる2つの定説

住宅ローンの繰り上げ返済を調べると、だいたい同じ2つの結論にたどり着きます。

定説①「控除期間中は繰り上げるな。終わってから期間短縮型で返せ」

住宅ローン控除は年末残債の0.7〜1%が税額から戻ってくる制度です。繰り上げ返済で残債を減らすと控除額も減る。だから控除期間が終わってから、利息削減効果の高い期間短縮型でまとめて繰り上げるのが合理的、という論理です。金利上昇リスクへの警戒もあり、「早く元本を減らせ」という文脈で語られることが多い。

定説②「繰り上げ返済より投資に回せ。住宅ローン金利より高い利回りが狙える」

住宅ローン金利が1%以下であれば、同じ資金をS&P500やオルカンに回した方が期待リターンは高い。長期では年率5〜7%が狙えるという試算です。ただし投資リターンは保証された数字ではなく、不確実性が伴います。

この2つは、どちらも間違いではありません。

ただし、どちらも語られないことがあります。返済額軽減型で段階的に繰り上げるという第三の選択肢です。

私が選んだ第三の選択肢

2014年に自宅を購入しました。借入2,500万円、変動金利0.975%、35年払い、月額70,280円からのスタートです。

変動金利を選んだ時点で、金利上昇リスクは頭にありました。だからこそ選んだのが、返済額軽減型での段階的な繰り上げ返済です。

期間短縮型は月額が変わらず、将来の返済期間を短くします。返済額軽減型は返済期間をそのままに、毎月の支払額を下げます。私が選んだのは後者でした。

繰り上げのペースは初年度40万円、以降毎年7月のボーナスから30万円ずつ。10年間の合計で約310万円。住宅ローン控除が適用される期間(2014〜2023年)と、まるまる重なっています。

定説①に従えば「やってはいけない」繰り上げ返済でした。

結果は損だったのか。実際に計算してみました。

3パターンで計算してみた

同じ条件を3パターンで比較します。

パターン① 私が実際にやったこと 

控除期間中に毎年30万円(初年度40万円)を返済額軽減型で繰り上げ。月額は70,280円から65,000円へ段階的に低下。

パターン② 定説①通りの行動 

控除期間中は繰り上げず月70,280円を10年間払い続ける。控除終了直後に310万円を一括繰り上げ。

パターン③ 定説②通りの行動

繰り上げ返済せず、同額の月2.5万円をオルカンに積み立て続ける。

10年間(控除期間)の比較

項目    ①実際に繰り上げ②控除後に一括310万
ローン支払総額797万円   843万円
ローン控除受取202万円 203万円
実質負担595万640万

10年間で見ると①が約44万円有利です。ただし②は10年後に310万円を一括繰り上げするため、その時点での残債に差が出ます。

10年後の残債比較

状態残債
①繰り上げ後1629万
②繰り上げ前1870万
②310万繰り上げ後1560万

ここで重要な点があります。②は310万円を一括投入した結果、残債が①より約69万円少ない状態になります。「10年間の支払削減(44万円)より残債の差(69万円)の方が大きいから②が得」という見方もできます。

しかし残債は「今すぐ消える借金」ではありません。残り25年間、金利がかかり続けます。

35年トータルの比較

項目①実際に繰り上げ②控除後に一括
利息総額404万412万
ローン控除受け取り202万203万
実質負担2701万2708万

35年トータルでは①が約6.6万円有利という結果になりました。

残債差69万円は有利に見えますが、その差額に残り25年間かかる利息が約8.8万円。合計約77万円の不利となり、10年間の支払削減44万円を上回ります。

パターン③(投資)との比較

項目年率5%想定年率7%想定
積み立て元本312万312万
現在の評価額408万458万
含み益96万145万

投資の追加利息コストは約48万円。含み益がそれを上回り、年率5%で差し引き約48万円、年率7%なら約97万円のプラスです。投資との比較では、繰り上げ返済は機会損失でした。

ただしこれは「金利が低水準のまま推移し、投資リターンが年率5〜7%で実現した」という前提の話です。

AIに聞いたら逆の結論が出た

試しに同じ条件をAIに質問してみました。返ってきた結論は「②の方が約60万円有利」というものでした。私の計算とは真逆です。

AIの論理はこうです。「10年後の残債差(69万円)が10年間の支払削減(44万円)より大きいから②が得」。

しかしこの計算には、残債差に将来かかる利息が含まれていませんでした。残債差69万円に25年間の金利がかかると追加利息は約8.8万円。これを加味すると逆転します。

また、AIが提示した「約60万円の差」はさらに大きく誇張されていました。実際に計算してみると差はわずか6.6万円です。

「AIが言うから正しい」も、「定説だから正しい」も、思考停止という意味では同じです。

なお、AIが使った計算は2022年以降購入の新制度(控除率0.7%・13年間)を前提としていました。この場合、同条件で試算すると②がわずかに有利(約1.4万円)になります。購入年と適用される控除制度によって結果は変わります。

数字では見えない③の価値

計算上の損得はわずかな差です。では返済額軽減型(第三の選択肢)に、数字以外の価値はあったのか。

金利上昇への耐性  

月々の返済額を段階的に下げておいたことで、金利が上昇しても生活へのダメージが抑えられます。実際に昨年、変動金利が0.975%から1.375%に上昇しました。返済額が下がっていたからこそ、その影響を吸収できました。

確実な利回りの確保 

投資はマイナスになるリスクがありますが、繰り上げ返済による利息削減は「確実に非課税で0.975%の利回りを出し続けた」のと同じ価値があります。

精神的な余裕  

月々の固定費が段階的に下がっていくのは、家計管理において数字に表れない安心感を生みます。子供の習い事が増えても、単身赴任で生活費が二重になっても、固定費が低い状態は選択肢を広げます。

これらは「金利が変わらない」「投資で必ず増える」という仮定の上に成り立つ計算式には現れない価値です。

結論:3つのミックスが理想解

今回の検証を整理するとこうなります。

選択肢メリットデメリット
①控除後に期間短縮型利息削減効果が高い月額は下がらず金利上昇リスクあり
②投資に回す期待リターンが高い不確実性あり
③返済額軽減型で段階的に月額が下がり金利リスクヘッジ利息削減効果はやや低い

3つのどれが正解かという問いへの答えは、状況によって変わるとしか言えません。

ただ私自身の10年間を振り返ると、返済額軽減型で月々の固定費を下げながら、ある程度の余裕を作ってから投資にシフトするという流れは、攻守のバランスとして悪くなかったと感じています。

理想は3つのミックスです。控除をある程度活かしながら、返済額軽減型で月額も下げ、余剰資金は投資へ。どの比率にするかは、金利水準・家計のキャッシュフロー・リスク許容度によって人それぞれです。

もうひとつ付け加えたいことがあります。

定説①(期間短縮型)も定説②(投資)も、実行するにはある程度の資金的余裕や精神的なゆとりが必要です。まとまった資金を一括で動かせる家計、投資の含み損に耐えられるメンタル、倹約を続けられる意志力。どれも簡単ではありません。

返済額軽減型の繰り上げ返済は、ボーナスから少しずつ実行できて、翌月から即座に固定費が下がります。物流で言えば「燃費を改善する」ような投資です。劇的な変化ではないけれど、確実に毎月の家計が楽になる。その心理的な余裕が、次のステップへの原動力になります。

華やかな数字は出なくても、一般家庭にとって最も続けやすい選択肢が第三の選択肢かもしれません。

計算が複雑で難しいという場合は、信頼できるFPへの相談が現実的な選択肢です。また全国銀行協会では住宅ローン返済に関する無料カウンセリングサービスも提供しています。

→ [全国銀行協会 カウンセリングサービス]

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